「リカバリーメソッド」という言葉を、僕はいつから使っているのか。
そう聞かれることがあります。
答えは、1つの瞬間だけではありません。
いくつかの挫折と気づきが積み重なって、今の形になりました。振り返ってみると、地味な経験の連続でした。
その道のりを、今日は書いていこうと思います。
企業というチームを預かる方にも、読んでいただけたら嬉しい話です。
一人の受験生が自分をどん底から立て直した手順が、チームドクターとして組織のコンディションを考えるときの土台にもなっているからです。
覚悟の差
体育学部に進んだ僕は、本物のプロサッカー選手の卵たちと同じグランドで練習をすることになりました。
ウォーミングアップのランニングにすら、ついていけない。技術でも体力でもない差が、そこにありました。彼らが徹底していたのは、練習そのものよりも、練習と練習の間の過ごし方です。オフの時間の使い方まで、僕とは別の生き物のように整えられていました。
「あ、これ、今からじゃ逆転できない」
そう思った日のことを、今でも覚えています。才能だけが足りなかったわけでも、努力の量だけが足りなかったわけでもありません。回復への覚悟が、決定的に違っていたんです。
そこで終わっていれば、僕はただプロになれなかったサッカー選手で終わっていたと思います。実際、しばらくはそうなりかけました。
気合と根性が尽きた1年
しかし、僕はまだサッカーの世界で挑戦したかった。
だから、医者(スポーツドクター)になってサッカーの世界に戻ろうと、医学部受験を決めました。
1年目は、気合と根性だけで挑みました。食事はコンビニのおにぎりとサンドイッチが中心、風呂は週2回シャワーのみ。睡眠を削るためにコーヒーをがぶ飲みし、1日16〜18時間机に向かう生活を続けました。
最初のうちは頑張れます。ですが2〜3か月ごとに、電池が切れたように動けなくなりました。1週間ほど寝転んで過ごしては、また猛勉強に戻る。そんな波を繰り返した1年の末、受験した医学部はすべて不合格でした。
全落ちが決まった夜、ベッドの上で考えているうちに眠ってしまいました。真っ暗な部屋で膝を抱えて座っている自分の夢を見て、「あいつら(プロサッカー選手の卵たち)ならどうするだろう」と考えた瞬間、分かったことがあります。
練習前の準備を、自分は受験勉強に応用していなかったんです。
生活リズムを守っただけで、原型が生まれた
2年目は、やり方を変えました。予備校の寮に入り、起床・朝食・移動・帰宅・夕食・入浴・就寝の時間を徹底して守る。特別なことは、何一つしていません。ただそれだけを、365日守り続けました。
休まず高い集中力を保てたのは、この生活リズムのおかげでした。合格が決まった日、共に戦った仲間3人と寮で抱き合ったのを覚えています。あの1年で学んだのは、志と、リカバリーと、仲間の3つが揃って初めて長丁場を戦い抜けるということでした。「リカバリーメソッド」の原型は、ここで生まれています。
現場で見えた、一般解の限界
医師になり、サッカーの現場に戻りました。
怪我は治せます。ですが「なんとなく調子が悪い」という相談には、うまく応えられませんでした。選手を直接治すこともできない。怪我をしていない選手に貢献することもできない。次第に選手たちは、マッサージや鍼灸のできるトレーナーを頼るようになっていきました。
自分にできることは何だろう。
そう考え続けた先でたどり着いたのが、「基準値」という発想です。
僕が基準値と呼んでいたのは、プレーの技量ではなく、リカバリーの基準値でした。
医学部でサッカー部に入り直したとき、プレーのレベルでは全く歯が立たない環境でした。周りからは「それは無理だ」と言われる場面もありました。それでもプレーのレベルは下げたまま、回復の基準値だけは下げずに毎日を積み重ねたところ、いくつかの大会で結果が出ました。技術や体力の差は、すぐには埋まりません。整えることの基準なら、今日から上げられます。この違いに、当時の僕はようやく気づき始めていました。
同じ助言をしても、うまくはまる選手と、はまらない選手がいる。現場に立つほど、その差を無視できなくなりました。「これをやれば整う」という一般的な答えを渡して終わりにするのではなく、その人にとって何が効くのかを一緒に探していく手順のほうが、僕には必要に思えたのです。
5つを、別々にではなく一緒に見る
受験勉強も、サッカーの現場も、行き着いた答えは同じところにありました。
睡眠、食事、運動、自律神経、環境。これらは1つずつ整えるものではなく、組み合わせて初めて機能します。睡眠だけ整えても、食事が崩れていれば元に戻る。運動を頑張っても、自律神経が乱れたままなら続きません。5つを一緒に見て、その人にとって何が効くかを見つけていく手順。それを僕は、リカバリーメソッドと呼んでいます。
体育学部での挫折も、受験の2年間も、現場での無力感も、振り返れば1本の線でつながっています。休むための技術ではなく、挑戦し続けるための技術として、少しずつ積み上げてきました。
今、経営者の方々のコンディションを見るときも、根っこにあるのはこの視点です。忙しさの中で自分を後回しにしてしまう感覚は、当時の受験生活と重なるところがあります。一般解を探すのではなく、自分にとって何が効くのかを知る。その手順を、僕は仕事として続けています。
あなたもまずは、自分の今の状態(コンディション)を知ることから始めてみませんか。
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企業ご担当者の方へ
一人を整える手順は、チーム全体を見るときの土台にもなります。
この視点を、チームドクター(組織の主治医)として企業の現場にも持ち込んでいくつもりです。
組織のコンディションについて、まずはご相談ください。
※産業医としての業務は労働安全衛生法に基づく職務です。診療(診断・治療・投薬)は行わず、治療が必要な場合は医療機関をご案内します。産業医業務は現在準備中(2026年9月下旬 開始予定)で、ご相談・ヒアリングは今から承っています。
※この記事は個人的な考え方の紹介であり、医療(診断・治療)としてのエビデンスはありません。体調に不安のある方は医療機関にご相談ください。
