このサイトの入り口に、短い言葉を置いています。「健康寿命から、挑戦寿命へ。」
その言葉の裏には、U20サッカー日本代表でチームドクターをしていたころの経験があります。企業の産業医としてこれから何を大切にしていくのか、その原点でもあるので、今日は少し長く書かせてください。
選手を治すことが、仕事のすべてではなかった
「チームドクター」と聞くと、多くの人は、怪我をした選手を治療する仕事を想像すると思います。僕も、任される前まではそう思っていました。
捻挫を診て、テーピングを巻いて、痛みが出れば対応する。それが仕事の中心だと考えていました。
代表に入った当初の僕は、正直、目の前の仕事を頑張ることしか考えていませんでした。ところが周りのスタッフや選手たちは、違う視点で日々に向き合っていました。「日本を強くするにはどうするか」。誰もがその問いを持って、それぞれの持ち場で動いていたんです。その姿に、衝撃を受けました。
自分の担当を守っていれば十分だと思っていた考え方が、根本から揺さぶられた瞬間でした。現場に入って早い段階で、選手を診るだけでは足りないと気づかされました。選手が1人、どれだけ万全な状態でも、チーム全体のコンディションが崩れていれば、勝てる状態にはならないからです。当たり前のようで、見落とされやすい事実だと思います。
僕の一番大きな仕事は、「差し替え」の判断でした
海外での大会に帯同していると、選手が試合中や練習中に怪我をすることがあります。
そのとき現場でまず問われたのは、治療の腕前ではありませんでした。無理をさせて帯同を続けさせるか、それとも日本に帰し、控えの選手を新しく呼ぶか。この「差し替え」の判断こそが、ドクターとしての一番大きな仕事だったんです。
厳しい決断ですが、この判断を重ねていくうちに、大会中に長引く怪我を抱えたまま過ごす選手は少なくなっていきました。僕が日々の時間を注いでいたのは、その場の痛みへの対応より、次の試合まで今の状態をどう持ちこたえさせるかという時間の使い方です。目の前の1人を治すことと、チーム全体が万全な状態で試合に入れるようにすること。同じ現場に立っていても、見ている先はまったく別物でした。
誰か一人ぶんの無理は、長くは続かない
チームには、状態の良い選手も、そうでない選手もいます。誰かが不調でも、周りが穴を埋めれば、その場はしのげます。
ただ、それが積み重なると、チーム全体の消耗につながります。1人が頑張って支えている状態は、外からは「うまく回っている」ように見えても、内側では負担が偏り続けています。
企業の組織にも、同じ構造があるように感じます。実力のある社員が1人で無理を重ねて成果を支えている職場を、これまでいくつも見聞きしてきました。周りは気づいていても、どこから手をつけていいか分からない。本人も、弱音を口にする間がない。そうしているうちに、限界がある日突然表に出る。チームのコンディションが崩れるときは、たいてい静かに進んでいます。
組織のコンディションは、個人の合計ではない
医師になってからも、この経験はずっと僕の中に残っています。
優秀な社員が1人いても、チーム全体が疲弊していれば、組織として力を発揮できません。個人の健康と、組織のコンディションは、別の問題です。従業員1人ひとりが健康診断を受けていても、それだけで組織全体を見たことにはなりません。個人を見る目と、チームを見る目は、両方が必要です。
産業医の職務は、法令上あくまで従業員1人ひとりの健康管理を中心に置いたものです。それでも、複数の従業員と継続的に関わり、職場を定期的に見ていく立場だからこそ、個人の情報の集まりからは見えてこない、組織としての傾向に気づける場面があると考えています。この「チーム全体を見る目」を、これから企業に持ち込みたいと思っています。
産業医業務そのものは現在準備中で、2026年9月下旬の開始を予定していますが、組織のコンディションをどう見ていくか、そのご相談は今からでも承っています。
チーム全体を見るということは、1人ひとりを見ないということではありません。むしろ逆です。1人ひとりの状態を丁寧に見たうえで、その集まりであるチームがどうなっているかを、もう一段上から見る。両方の視点を行き来できることが、この仕事の核心だと感じています。
代表チームで監督から託されたのは、選手1人ではなく、チーム全体でした。同じ目で、これから企業という組織を見ていきます。
組織のコンディションについて、気になることがあれば、まずはご相談ください。
※産業医としての業務は労働安全衛生法に基づく職務です。診療(診断・治療・投薬)は行わず、治療が必要な場合は医療機関をご案内します。産業医業務は現在準備中(2026年9月下旬 開始予定)で、ご相談・ヒアリングは今から承っています。
