重要な決断の前に、頭が整っているか

「いつも通りにやってくれたら、それでいいのにな。」

U20日本代表チームでドクターをしていた頃、監督がスタッフミーティングでふと漏らした言葉です。初めて代表に選ばれた若手選手ほど、大舞台になると普段のプレーから離れてしまう。実力が足りないのではなく、頭と体が「本番用」に浮き足立ってしまうのです。

経営者にとっての本番は、ピッチではなく重要な決断の場面だと僕は見ています。契約を結ぶかどうかの会議、値上げを伝える交渉、人を採用するか手放すかの決断。日常のどこかに、必ずその瞬間はやってきます。

同じ材料でも、決められる日と決められない日がある

経営の重要な決断は、情報や分析だけで決まるわけではありません。同じ数字、同じ選択肢を前にしても、決められる日と、決められない日がある。これは僕がスポーツの現場と経営者の方々を見てきた中で、共通して感じてきたことです。

整っていない日は、判断が先送りになる。あるいは逆に、普段なら選ばない極端な方に振れてしまう。会議で結論を出したはずなのに、翌日にはまた迷っている。そんな経験に心当たりのある方もいるのではないでしょうか。

材料は同じなのに、出てくる答えが変わってしまう。その差を生んでいる要因のひとつが、コンディションだと僕は考えています。

たとえば、重要な契約の可否を判断する場面を思い浮かべてください。整った状態であれば条件を1つずつ冷静に比較できても、疲労が抜けないまま臨めば、目先の不安や焦りに引っ張られて結論を急いでしまうことがあります。同じ立場、同じ経験を持つ人でも、その日の状態しだいで判断は変わってしまうのです。

先ほどの代表チームの話に戻ります。初めて代表に呼ばれた選手は、喜びと誇りで気持ちが高ぶります。そのまま試合に入ると、普段しないプレーを選んでしまう。気合いが足りないのではなく、状態が整っていないだけなのです。

経営者の重要な会議や交渉にも、似たことが起きます。前日まで別件に追われ、寝不足のまま席に着く。あるいは直前まで情報を詰め込み、頭が整理されないまま本番を迎える。これでは、普段の判断力をそのまま発揮するのは難しくなります。

決断の状態は、5つの要素で作られる

僕がコンディションを見るときの軸は、睡眠・食事・運動・自律神経・環境の5つです。決断の場面にも、そのまま当てはまると考えています。

睡眠が削られていれば、細かい判断がぶれやすくなる。食事の内容や時間が乱れていれば、会議の途中で集中力が切れる。運動不足が続けば、プレッシャーのかかる場面で余裕を欠きやすくなる。自律神経が乱れていれば、平常時なら選ばない極端な判断に傾く。そして、直前まで大量の情報や雑音にさらされる環境も、頭を整理する余白を奪います。

どれか1つが原因というより、いくつかが重なって「決められない状態」を作っていることが多いというのが、僕の見方です。

スポーツの世界には、大会に向けて状態を仕上げていく「ピーキング」という考え方があります。本番の日だけを特別扱いするのではなく、日々の練習の質を積み重ねて、本番に向かう状態そのものを作っていく発想です。

経営における日々の小さな決断も、同じように捉えられると僕は考えています。今日の会議で誰に何を伝えるか。届いたメールにいつ、どう返すか。ひとつひとつは小さな判断でも、整った状態で決められているかどうかの積み重ねが、重要な決断の場面での土台になっていきます。

大きな決断の日だけ状態を整えようとしても、うまくいかないことが多いのはそのためです。日々の小さな決断を、本番に向けた予行練習として扱ってみる。それだけで、重要な場面での余裕は変わってきます。

前日と当日を、決断のために設計する

スポーツの現場では、本番に整った状態で選手を送り出すことを仕事にしてきました。前日に新しい練習は増やさない。睡眠の時間を削らない。当日の朝の過ごし方まで、ある程度決めておく。

経営の重要な決断も、同じように前日と当日を設計できると僕は考えています。前日は、新しい判断材料を詰め込みすぎない。当日は、会議に入る前に何を整えるかをあらかじめ決めておく。たとえば、当日の朝は新しい情報を追加でインプットしない、体を軽く動かしてから会議に入る、といった小さなルールを自分の中に持っておくのも一つの方法です。会議や交渉そのものを「本番」だと捉え直すだけで、準備の仕方は変わってきます。

決断力は、性格や才能の問題ではない

決断力は、性格や才能の差だと思われがちです。ですが、僕がスポーツと経営、両方の現場で見てきたのは、整った状態で本番に入れているかどうかの差でした。

次の重要な決断の前に、まず自分の状態を整えることから見直してみる。それだけで、同じ材料からでも違う答えにたどり着けるかもしれません。

重要な決断は、事業の方向やチームの未来を左右します。だからこそ、材料集めや分析に時間をかけるのと同じくらい、決断する自分の状態にも目を向ける価値があると僕は考えています。

3分コンディションチェック(無料)で、今の自分の状態を確認できます。
https://lin.ee/6snjS4c

※この記事は一般的な考え方の紹介であり、医療行為(診断・治療)ではありません。体調に不安のある方は医療機関にご相談ください。

COLUMN

個人と組織のパフォーマンス

PAGE TOP