睡眠が効く人、食事が効く人。

同じ練習メニューを渡し、同じだけ休養をとらせても、翌朝のコンディションがまるで違う選手たちがいました。

この差はどこから生まれるのか。

スポーツの現場に出てからずっと、この問いが頭を離れませんでした。経営者の体を見るようになった今も、答えは変わっていません。

30分の睡眠で戻る人、前日の食事で決まる人

チームドクターをしていた頃、選手たちの回復パターンを見ていて驚いたことがあります。

睡眠時間をたった30分延ばすだけで、翌日の動きが目に見えて戻る選手がいました。前日の食事のタイミングと内容を整えただけで、コンディションが安定する選手もいます。遠征や移動が続くと、他の要素より先に自律神経が崩れてしまう選手も少なくありませんでした。

同じチームで、同じスケジュールで動いているのに、崩れ方も戻り方も人によって違う。1試合だけを見ていては気づきません。シーズンを通して同じ選手を見続けて、ようやく見えてくるパターンです。僕はそれを、選手ごとの「急所」だと見ています。

経営者の方を見ていても、似た場面によく出会います。

前日の会食が長引いた翌日に、頭が回らなくなる人。
移動の多い週だけ、決まって体調を崩す人。
睡眠時間はどれだけ削っても平気なのに、食事を抜くと途端に集中力が落ちる人。

コンディションを構成する要素は、睡眠、食事、運動、自律神経、環境の5つで、どの人にも共通しています。ただ、どこが崩れやすく、どこを整えると戻るかは、1人ずつ違います。同じ5つの要素を持っていても、重みのかけ方がまったく違うということです。

一般論の健康法が、そのまま効くとは限らない理由

世の中には健康法があふれています。早起きが良い、糖質を控えた方が良い、朝の運動が良い。どれも間違いではありません。ただ、それが目の前のあなたの急所と一致しているかは、また別の話です。

睡眠が急所ではない人が睡眠だけを整えても、体感できるほどの変化は出ません。食事のタイミングが急所の人にとっては、運動量を増やすより先にやることがあります。自律神経が急所の人にとっては、何を食べるかより、移動や商談の合間にどう息を抜くかの方が、よほど効きます。

雑誌やSNSで話題の健康法を試しては、効果を感じられずにやめてしまう。そういう相談を、これまで何度も受けてきました。話を聞いていくと、その健康法自体が悪いのではなく、その人の急所とずれていただけ、ということが少なくありません。

良いと言われることを全部やろうとする必要はありません。それよりも、自分にとってどれが効くのかを先に知っておく方が、時間の使い方として合理的です。忙しい人ほど、効かないことに時間を使う余裕はないはずです。

急所は、固定されているわけではない

もう1つ、選手たちを見ていて分かったことがあります。急所は、シーズンを通してずっと同じ場所にあるとは限らないということです。

移籍したばかりの選手は、環境への適応が急所になりやすく、シーズン後半で疲労が蓄積してくると、それまで気にならなかった睡眠の質が急所に変わることがありました。年齢を重ねるにつれて、運動量よりも回復のスピードが急所になっていく選手もいます。

経営者の方でも、繁忙期と落ち着いた時期では、崩れやすい場所が変わることがあります。出張が続く時期は移動と環境、決算期は睡眠、といった具合です。だからこそ、1度見つけた急所を過信せず、状況が変わるたびに見直す姿勢が必要になります。

急所は、記録して初めて見える

では、自分の急所はどうやって見つかるのか。

選手を見ていた頃も、経営者の方を見ている今も、やり方は変わりません。まず今の状態を記録します。睡眠時間と質、食事の内容とタイミング、運動の有無、体の感覚、その日の仕事のパフォーマンス。難しく考える必要はなく、寝た時間、食べた時間、体調を5段階でつける程度で十分です。1週間もあれば、パターンは見え始めます。

次に、1つだけ条件を変えます。睡眠時間を30分延ばす、食事の時間を1時間早める、移動の前後に整える時間を作る。そして、また記録します。変化が出た項目があれば、そこがその人の急所です。

複数の条件を同時に変えてしまうと、何が効いたのか分からなくなります。地味なようで、1つずつ確かめていくのが一番早い道です。

僕がPerformance Designというコースで3ヶ月かけてやっているのは、まさにこの作業です。1ヶ月目に今の状態を知り、2ヶ月目にどこが急所かを一緒に見つけ、3ヶ月目にその人専用の整え方を設計する。終わる頃には、自分の体の取扱説明書が手元に残ります。

締め

急所は、人によって違います。だからこそ、一般論の健康法をなぞるより、自分の記録から見つける方が確実です。時間をかけて自分の急所を知っておくことは、この先ずっと使える財産になります。

まずは、今の自分がどこで崩れやすいのか。そこから見てみませんか。

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※この記事は一般的な考え方の紹介であり、医療行為(診断・治療)ではありません。体調に不安のある方は医療機関にご相談ください。

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